こんな本はどうですか?-評論文編
先月号では、入試問題によく出題される小説を紹介しました。受験勉強のためではなく、数多くある本の中から選ぶ物差しの一つになればと思い、出題頻度が高い作品を取り上げたわけです。さっそく購入されたというお母さんたちの声も少なからず耳にしました。やはり読書については、多くのご家庭が切実な問題として捉えているのですね。
さて、今月は同様の趣旨で評論文を取り上げてみます。評論文のテーマの中でも、言語論、(比較)文化論、読書論、人生論などは流行を問わず毎年入試問題に散見されます。その一方、世相に敏感なのも入試の特徴で、例えば環境問題に関連する内容は昨今の入試で比較的頻度が高いと言えます。また、ベストセラー本に対する反応も素早いもので、一時期は「バカの壁」や著者の養老孟司の他の著作が目立ったものです。今年の入試問題を見渡してみると、若年層に直接語りかける形式の人生論や哲学論が多く見受けられます。やはり、若者が自他を問わずいのちを軽んじる傾向にある現代日本社会の問題を、教育現場も重く捉えてるということでしょう。先日の教育講演会で張江先生が推薦された、池田晶子著「14歳からの哲学-考えるための教科書」もこの形式に属する著作です。「14歳の君へ-どう考えどう生きるか」も同様です。同著者の入試出題著作は、「勝っても負けても」(立教新座中学)、「知ることより考えること」(筑波中学)などがあります。
いのちというテーマでは、法政の中学入試に出題された高史明(コ・サミョン)の「いのちの大切さ」も秀作なのですが、残念ながら品切れで増刷予定がないようです。同著者の「生きることの意味-ある少年の生い立ち」は入手可能です。その他、以下のものもいのちの大切さや生き方をテーマにした著作です。
「はじめの哲学」(三好由紀彦)
「十歳のきみへ-九十五歳の私から」(日野原重明)
「生命のきずな」(大田 尭)
「ゆっくりでいいんだよ」(辻 信一)
「自分・この不思議な存在」(鷲田清一)
次に、今年神奈川の栄光学園で出題されたのが右の「おはようからおやすみまでの科学」(佐倉 統・古田ゆかり)ですが、公立高校では秋田、神奈川、静岡、高知、長崎の6県で出題されました。日常生活と科学技術のつながりをわかりやすく説明しています。気軽に読める文章なので、科学嫌いの子どもでも読みきれるでしょう。
小説分野のダントツ一番人気作家は重松清でしたが、評論分野の王座は脳科学者の茂木健一郎です。ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、東工大大学院客員助教授の傍ら、NHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」のパーソナリティーを務めるまさに「時の人」です。小学生には難解すぎるのか、出題は高校入試が中心です。そうはいっても、出題部分は比較的平易な内容を抜粋しているでしょうから、中学生でも一冊を通読することは少し根気がいるかもしれません。出題例は「ひらめき脳」、「クオリア降臨」、「欲望する脳」、「脳の中の人生」、「脳と仮想」、「意識とは何か」、「生きて死ぬ私」があります。特に「ひらめき脳」は出題校最多です。
最後に、現代文明批判をテーマにした評論を紹介します。「パンツをはいたサル」(栗本慎一郎著)をご記憶の方は多いでしょう。あれから約30年経て文明はさらに進化し、サルは携帯電話を持つようになりました。「ケータイを持ったサル-人間らしさの崩壊」の著者である正高信男は京都大学霊長類研究所教授で、IT技術の進歩によって人間のコミュニケーション能力がサルのレベルに退化し、思考力の衰退や希薄な家族関係を引き起こしたと論破しています。同書は成城の高校入試で出題されました。また、「考えないヒト-ケータイ依存で退化した日本人」は成蹊、城北埼玉で、「他人を許せないサル-IT世間につながれた現代人」は城北高校で出題されています。「ケータイ」を批判的に考えたことのない現代っ子ににぜひ読んでみてほしい著作です。また、同著者は子育てに関する著作も多く、「父親力」、「育児と日本人」などは特にお父さんにおすすめです。





